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活動報告

病床の多い日本でなぜ医療崩壊が起きるのか

1月10日の東洋経済です。
1月7日に2度目となる緊急事態宣言が発令された。宣言解除のカギとなるのが、病床の逼迫が解消されることだ。日本は人口当たりの病床数が諸外国の中でも多く、感染者数が圧倒的に多い欧米よりも病床の逼迫度は薄いようにみえる。
そうであるのに、日本でなぜ「医療崩壊」の危機が叫ばれるのか。医療体制に関する法制度の専門家で、現役の内科医でもある東京大学法学部の米村滋人教授に話を聞いた。(インタビューは1月6日に実施した)。
■感染症患者を受け入れる義務はない

――行政は感染者を受け入れる病床確保を急いでいますが、苦戦しています。病床を確保するうえで法律上、どんな問題があるのですか。
医療機関には感染症患者を受け入れる法的な義務はない。医療体制を規制する医療法では、どういう診療科で、どんな患者を受け入れるかはそれぞれの医療機関が決められることになっている。
病院に対する監督権限のある都道府県が病院に対し、「こういう病床を用意してください」と指示・命令できない。
新型コロナの感染患者を受け入れるかどうかも、各医療機関の病院長が決めている。地域全体で必要な病床が確保できなくても、行政ができるのは、あくまで病院に対する「協力要請」にとどまる。

――感染者の受け入れは公立病院や公的病院に集中し、民間病院での受け入れが進んでいないようです。
公立病院の場合、都道府県知事などからほぼ命令に近い形で要請されている。しかし、民間病院に対しては強制力がないため、「うちは診ません」という病院が大半だと手の打ちようがない。
しかも、日本の医療機関のうち民間病院は約8割を占め、諸外国よりかなり高い。日本の医療制度は、医療機関の自主的な判断を尊重するうえ、大多数を占める民間病院に対して行政介入の余地が小さい仕組みになっている。こうした根本的な仕組みが改められないまま、新型コロナへの対応が続いている。

――感染した患者を受け入れる病院は満床状態になり、「医療崩壊」が起こっていると報道されています。
いわゆる医療崩壊は、一部の医療機関で(すでに)起こっている。(感染患者を)受け入れている病院は、これ以上(患者を)受け入れれば感染対策が不十分になり、他の疾患の患者を受け入れられないなどの問題が出てくる。
感染者を受け入れる病床は少しずつ増えている。だが行政は、(すでに患者を)受け入れている病院にさらに病床を増やすよう依頼している状況だ。病床をやむをえず増やしても、そこで働く医療従事者が増えるわけではない。そのため、現実に患者が発生しても、やっぱり受け入れることができないという状況がたびたび起こっている。
一部の医療機関のみが感染患者を引き受けることにより、医療機関の間に負担の大きな偏りが生じている。

■医療従事者の負担はすでに限界

――医療従事者への過重な負担も問題になっています。
感染患者を受け入れる医療機関に、医療従事者を公的に派遣する措置はない。感染者を受け入れる病院では、内部で人員をやりくりせざるをえない。こうした病院のスタッフは長期間にわたって感染患者に対応し続けなければならず、すでに限界に達している。
一方で、感染患者を受け入れない医療機関の中には、患者数が減少し、医療従事者の人員が過剰になっているところもある。医療従事者間でも負担の偏りが生じている。

――感染患者を受け入れたことで、他の病気にかかった患者が受け入れられなくなるなど、通常診療への影響が懸念されています。感染患者を受け入れる医療機関を増やせば、他の病気の治療に影響が出ないのでしょうか。
たしかに、ある程度規模が大きい病院でなければ、感染患者と他の救急患者を分けて対応するのは難しい。感染患者を診ることのできない病院にまで、無理に感染患者の受け入れを強制する必要はない。
感染患者を受け入れていない病院が他の救急患者を積極的に受け入れるなど、病院間で役割分担をすればよい。要は、日本全体として医療資源をうまく活用する必要がある。

――受け入れ病院数を増やすためには、どうすればよいのでしょうか。
2020年4月の緊急事態宣言では、感染者数を減らし、病床整備のための時間稼ぎをしている間に対策を打つという方針だった。しかし、いつの間にか病床確保という点は置き去りにされていた。
今回の緊急事態宣言では、時間稼ぎをしても感染者を減らす以外に病床確保のための具体策が示されていない。
パンデミックのように、国全体が危機に陥っている状況では、平時とは違うルールで医療を動かす必要がある。まずは、医療機関の間で、受け入れ病床について協議することが必要だ。

■東京都はもっと行政介入ができた

地域の医療資源の調整は、通常時でもないわけではない。例えば、産婦人科医が少ない地域では地域の医師会が調整したり、大学病院の医局を通じて医師の足りない病院に派遣したりするしくみが効いていた。しかし、パンデミック下では、ただでさえ少ない感染症の専門医を大学医局から派遣してもらうわけにいかない。
医師会や大学医局間の調整が期待できなければ、行政が主導すべきだ。行政が地域単位で協議の場を設け、「感染患者を受け入れてほしい」とはっきり言うことだ。現行の法律では都道府県の権限を越えているが、それを恐れていれば問題は解決しない。緊急事態宣言の前に、東京都もその権限でもっと行政介入ができたはずだ。
それができないなら、特別措置法を改正して、医療機関へ要請以上の指示ができる仕組みを検討するのがよい。飲食店や行動制限に対する罰則をつくるよりも、こちらのほうが緊急性が高い。行動制限で感染者数が減るとしても2〜3週間後になる。今発生している患者をどうするのかという問題に向き合わなければならない。

――重症患者を診る集中治療の専門医の数は限られています。マンパワー不足で患者を受け入れられない病院もありえます。
たしかに、重症患者の対応は専門医が不足していれば難しい。しかし、ポイントは軽症と中等症の患者だと思う。
重症患者ばかりが注目されるが、中等症の患者をきちんと病院に収容できていれば、重症者を減らせる。そうすれば、医療につながる前に亡くなってしまうケースもなくなるはず。軽症から中等症患者の受け入れは、設備や専門医のいない機関でも可能なはずだが、そうなっていない。

――病院側はなぜ感染患者を受け入れたがらないのでしょうか。
一番の問題は、クラスター(集団感染)が起こったときだ。2〜3週間は完全閉院にしなければいけなくなり、消毒などをして膨大な費用がかかるうえ、収入はゼロになる。病院からすれば、そんな危険なことはできないというのが本音だろう。全国的にどこで受け入れるか、押しつけ合いが起こっている。

――医療機関に財政支援すれば、病床をもっと拡大できないでしょうか。
財政支援は、感染患者をいま受け入れている病院への支援にはなっている。ただ、患者を受け入れていない病院が(支援によって患者を)受け入れるようになるかというと、あまり魅力的に映っていない。結局、いまの財政支援は、感染患者を診ることでかかった直接経費を補填する形になっている。クラスターが発生して閉院したときの損失分や、評判が落ちて患者が減ったときの損失分は対象外だ。「手当(既存の財政支援)だけでは全然足りない」と考える医療機関が多いのではないか。

■社会を崩壊させない感染症対策を

――では、閉院・減収時の損失を補填する仕組みを作れば、患者を受け入れる病院は増えるでしょうか。

増えると思う。しかし、そうした提案は厚労省でなかなかに受け入れられていない。
政府は、大きな打撃を受けている飲食店や観光産業に対し、減収分の補填まではしていない。なぜ、医療機関だけを補償するのかと問われたときに説明できない、というのが厚労省の立場だ。

――米村教授自身がいま、診療の中で感じていることはありますか。
私の勤めている病院(東京都健康長寿医療センター)は高齢者が多く、患者には大きく2通りの反応がある。1つはコロナが怖いから病院も本当は来たくないという反応。もう1つは、家族が介護施設に入っていて会えなくてつらいという患者や、友人ががんの末期で何日もつかという状況なのに会うことができないという患者だ。
人と人の接触を断つことが感染対策だという点に私は抵抗がある。各人の意志をそれ以上に強制してはいけないということを前提に感染対策を組むべきだというのが、私の基本的な考え方だ。
人間社会を崩壊させない形でなければ、感染(症)対策は意味がない。「病気は治りましたが、患者は死にました」というのと同じ。感染症を克服できたけど人々は不幸になったというのでは、感染症対策をやった意味がない。
感染拡大を防ぐには他のやり方がないわけではない。マイルドな形で人々の行動をコントロールするツールを使うことだ。2020年6月に厚生労働省が配信を始めた接触確認アプリ「COCOA(ココア)」があるが、これで感染が抑えられているか検証されていない。
ココアは、他のアプリとの比較検討で個人情報を収集しないため導入しやすかったが、(位置情報を収集していないため)いつどこで誰と接触したか具体的な情報がわからない。それでは人々に危機感を持ってもらうことにつながらない。
やはり、位置情報を把握し、日時と場所、誰と接触したかがわからなければ行動のしようがない。こうしたツールの検証と見直しも必要だろう。
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